手品先輩

成年を超え幾星霜を経てもいまだ男子と呼ばれるを拒まない諸君にはもちろん“ティッシュの使用量”に一家言あることと思う。

僕はこのパワーワードに中学生のころより悩まされ続けていた。親愛なる女史諸君にいま告げよう。

我々は“ティッシュの使用量”が多いことを恥ずかしく感じている。

ゴミ箱に溢れているくしゃくしゃと丸まった塊は忸怩たる思いそのものだ。

触れば湿り気を帯びている様なんか慚愧に堪えない。

砧で打ったような白が生臭そうに変色しているのは見るも無残だ。

生来より住むところ全てを寓居とみなし転々としてきたが、終生の地が見つかってもこの想いが止むことはないだろう。

 

キッチンの奥、ステンレスが貼られた壁にホルダーがある。

100円均一で購入した2つの吸盤がついたプラスチック製のもので、僕はティッシュ箱やラップを設置するために使っている。

このホルダーはティッシュ箱を濡らさないためにある。なくてはならないものだ。ワークトップはいつだって濡れやすい。モコズキッチンの広さはない。

紙のなんたる有用性と驚くべきか、成長しない自身の未熟を思うべきか。料理の場においてなお湯水の如くドバドバと使ってしまう。キッチンペーパーでも同じだ。

ゴミ箱はいつもくしゃくしゃとした紙片が押し込まれている……。

けれど、このホルダーの吸盤がよく落ちる。壁から剥がれる。

何度くっつけても落ちる。その度ティッシュ箱が水分にダイブして濡れる。シンクに突っ込んでずぶ濡れになったときはクラピカのように誰でもいい気分だった。

100円ですぐ買い直せる。不良品即廃棄。ともいかずホルダーはまだキッチンにあるし、何度も吸盤に願いをこめてしまう。

貼り付けかたが悪かったのかな?などひとりごちたりする。

ポンコツという言葉はときに愛しさをこめて使われるが僕はこのホルダーに愛を1ミリも持ち合わせていない。 

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

 

手品先輩/アズ

講談社 2016年8月刊

 

手の異常に不器用な先輩が1人繰り広げるマジックショー。

失敗の連続はいつもエロスを伴っていて唯一の観客である男の子、助手くんのタナトスに訴えかける。(助手くんのティッシュの使用量が増えていく)

およそラッキースケベものにおいてリトさん以上にヘイトを集めない男の子をつくるのは難しい。

先輩はひとりでに巨乳を晒しパンツを見せる。炎炎ノ消防隊の“ラッキースケベられ隊員”タマキや天野めぐみはスキだらけ!の天野さんと同じ仕組みだが男の子との関係性や肉体接触のなさでこちらの方がいくぶん上手だ。

助手くんに羨ましい以上の感情がわかないように溜飲を下げる方法があらかじめ提示されている。先輩のいる奇術部に入れば良い。

我々には等しく門戸が開かれている。

セルフ大開脚は刮目して見るべきである。

 

非肉体接触と着衣のエロス、アグレッシブおっぱいにおいてだがしかしのほたるさんも格別をみせているのだが、その話はまた。