レヴェナント

 

 レヴェナントを観た。

凄まじい映像美の連続。果てのない緑。世界を覆い尽くす白。絶えず流れる水。

人と人の激しい争い、時に獣にも圧倒される。

目の前に息づく生が一瞬の隙に消えていく。死の神の気まぐれで刈りとられていく。

おかげで終始生きた心地はしなかった。

けれど、画面を埋めるのは生への渇望だ。生きたい。生きたい。この世界に留まりたいと願う意志を通した世界だ。

撮影監督ルベツキの映像はまるで高熱にうなされる子供から見た世界のようだった。

酷く熱っぽく、朦朧としているけれど純心なまなざし。ありのままを見つめようとする眼。

ディカプリオが草や生肉を咀嚼していく。一歩一歩確実に歩みを進めていく。

映像が共鳴していく。美しかった。

親と子。白人とネイティブインディアン。アメリカとフランス。人と獣。人と自然。

複雑に二項対立を用意する本作はそれでも実はそこに賛美も痛罵もなく、一人の男がいるだけだった。

素晴らしい映画。

kanki

今一番読みにくいバンド(この言い回しがえらく気に入ってます)mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)の新譜、knakiが世に産み落とされてからしばらく経った。

 

kanki

kanki

 

 kanki/mol-74

 

今作でも寂寥感のある曲調は変わらず、もの悲しい抒情的なメロディとのびのびとしたギターが鳴る。少年のようなボーカル武市の声と裏腹に大人びて抑制の効いた全体の作りもそのままだ。

僕としてはいちはやくメジャーにいってもっともっと多くの人に聴かれるべきアーティストの筆頭である。より大きな環境、サポート体制で曲作りをして欲しいと願うのは僕だけの我儘ではないだろう。

 

今作では全体を通して日の光、特に夕焼けの橙色がよく喚起kankiされた。もちろんジャケットのペールオレンジの影響もある。暑くはなく淡い光だ。

リリース時期としても立秋だし、彼らの得意とする冬のイメージ寒気kankiからは遠からずも近からずだと思う。

エイプリルという曲もあるし、春という単語がいくつか出てくる。twitterで公開された彼らのひとこと紹介でも冬からの脱却はテーマのひとつだったように思う。

 

%という曲では大学の講堂で演奏する彼らが見られる。

モルカル史上最多人数のエキストラがハンドクラップする。そのスピードはよくわからないけれど面白い。曲調としても映像としても彼らの中でいちばん明るい。

新代田で観たライブでもこの曲は異彩を放っていた。


mol-74 - % 【MV】

いつもペシミズムな彼らが精一杯明るく振る舞おうとした曲だと思うと凄く可愛らしい。

 

ジャケットの淡いは多種多様な肌の色にも見えてくる。

ゆらぎという曲で武市は歌う。

泣いたり

笑ってみたり

怒ってみたり

跳んだり

落ち込んだり

忙しいね

僕らは

細かく見れば一瞬一瞬で人の顔は違う。髪型も違う。そして肌の色も違う。

内面だっていつも同じ感情ではない。

そのゆらぎの中に刹那でも歓喜kankiがあればとmol-74は願っているだろう。

そして

パッとしないこの世界を変えよう

紙とペンでは描けないような

素晴らしい世界が待っているはず 

 と僕らの手をひいてくれる。

手品先輩

成年を超え幾星霜を経てもいまだ男子と呼ばれるを拒まない諸君にはもちろん“ティッシュの使用量”に一家言あることと思う。

僕はこのパワーワードに中学生のころより悩まされ続けていた。親愛なる女史諸君にいま告げよう。

我々は“ティッシュの使用量”が多いことを恥ずかしく感じている。

ゴミ箱に溢れているくしゃくしゃと丸まった塊は忸怩たる思いそのものだ。

触れば湿り気を帯びている様なんか慚愧に堪えない。

砧で打ったような白が生臭そうに変色しているのは見るも無残だ。

生来より住むところ全てを寓居とみなし転々としてきたが、終生の地が見つかってもこの想いが止むことはないだろう。

 

キッチンの奥、ステンレスが貼られた壁にホルダーがある。

100円均一で購入した2つの吸盤がついたプラスチック製のもので、僕はティッシュ箱やラップを設置するために使っている。

このホルダーはティッシュ箱を濡らさないためにある。なくてはならないものだ。ワークトップはいつだって濡れやすい。モコズキッチンの広さはない。

紙のなんたる有用性と驚くべきか、成長しない自身の未熟を思うべきか。料理の場においてなお湯水の如くドバドバと使ってしまう。キッチンペーパーでも同じだ。

ゴミ箱はいつもくしゃくしゃとした紙片が押し込まれている……。

けれど、このホルダーの吸盤がよく落ちる。壁から剥がれる。

何度くっつけても落ちる。その度ティッシュ箱が水分にダイブして濡れる。シンクに突っ込んでずぶ濡れになったときはクラピカのように誰でもいい気分だった。

100円ですぐ買い直せる。不良品即廃棄。ともいかずホルダーはまだキッチンにあるし、何度も吸盤に願いをこめてしまう。

貼り付けかたが悪かったのかな?などひとりごちたりする。

ポンコツという言葉はときに愛しさをこめて使われるが僕はこのホルダーに愛を1ミリも持ち合わせていない。 

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

手品先輩(1) (ヤングマガジンコミックス)

 

手品先輩/アズ

講談社 2016年8月刊

 

手の異常に不器用な先輩が1人繰り広げるマジックショー。

失敗の連続はいつもエロスを伴っていて唯一の観客である男の子、助手くんのタナトスに訴えかける。(助手くんのティッシュの使用量が増えていく)

およそラッキースケベものにおいてリトさん以上にヘイトを集めない男の子をつくるのは難しい。

先輩はひとりでに巨乳を晒しパンツを見せる。炎炎ノ消防隊の“ラッキースケベられ隊員”タマキや天野めぐみはスキだらけ!の天野さんと同じ仕組みだが男の子との関係性や肉体接触のなさでこちらの方がいくぶん上手だ。

助手くんに羨ましい以上の感情がわかないように溜飲を下げる方法があらかじめ提示されている。先輩のいる奇術部に入れば良い。

我々には等しく門戸が開かれている。

セルフ大開脚は刮目して見るべきである。

 

非肉体接触と着衣のエロス、アグレッシブおっぱいにおいてだがしかしのほたるさんも格別をみせているのだが、その話はまた。

素敵な彼氏

眼が醒めてから寝癖に気づく瞬間が嫌だ。

頭上に根ざしたお調子者はそれでいていつも頑固だから水をつけても直らないし、世にある寝癖直しの類いをこれでもかというほど駆使しても無理で、結局は熱いお湯を捻り出して頭からかぶってしまう。すると眠さに重たい身体も起き上がっていく。

毎朝髪を乾かすことができるのは“朝シャン派”の特権であって、都度変わる髪を自由にメイクできるのは作品がつくられることと同義だ。

ブロウのやり方ひとつで髪は変わる。水気が指から離れていく。1本1本のうねりが束になり頭皮をおおっていく。昨日の曲線を髪は覚えてくれなくて、今日は前髪の一束がやけに主張してきたりする。

毎日、毎日。髪型は同じでいて違う。

 

「彼氏と彼女」の物語。

日夕創出される同じ関係性は、男の子女の子が取り替えられる度、違う組み合わせの物語。

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックス)

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックス)

 

素敵な彼氏/河原和音

集英社 2016年 5月刊

 

「彼氏」を欲しがる主人公、ののかはその「彼氏」に内実が伴わず鍵括弧がついてることに気づかないまま、頭でっかちに彼氏が欲しい彼氏が欲しいとわめく女の子。

「彼氏」探しの一環で知り合った桐山にすぐさまそれを見抜かれるも、ののかは間違いをよく理解できずにいる。

桐山は何故だか健気にののかの傍にいてくれる……。

 

桐山のモノローグがないのが良い。

ののかにちょっかいを出してきて後にその理由を独白して読者にだけ明かすなどしない。

とても単純なことだけどこれのできない作品の多いこと多いこと。

桐山がののかの気になる存在であると同時に、読者にも異彩を感じさせることと思う。何を考えているかわからないが優しいことだけはわかる。ののかのことが好きなのか……??

というのも理由があって。

その、ののかがやたらかわいい。

コロコロ変わる顔は百面相だし、謎のしたまつげがかわいい。黒三角形3つで描かれる。▼ ▼ ▼

目的をはき違えて愛らしいズレを持った子だけど、彼氏ゲットに向けて着実に進もうとするのは好感。

桐山にもののかにも興味が持てる作品なのだ。

「彼氏と彼女」の物語は世に無限にあって、彼氏だけ、彼女だけ魅力的な作品はいくつもあって、もちろん両方に魅力がある作品もいっぱいあって。

けど、この二人の組み合わせだと何が起こるんだろう、もまたひときわ面白い。

くっつくまでももちろん楽しみだけど、ののかと桐山はどういう恋人同士になるんだろう、で頭がいっぱいになれる。

∩(´;ヮ;`)∩ンヒィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

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