素敵な彼氏

眼が醒めてから寝癖に気づく瞬間が嫌だ。

頭上に根ざしたお調子者はそれでいていつも頑固だから水をつけても直らないし、世にある寝癖直しの類いをこれでもかというほど駆使しても無理で、結局は熱いお湯を捻り出して頭からかぶってしまう。すると眠さに重たい身体も起き上がっていく。

毎朝髪を乾かすことができるのは“朝シャン派”の特権であって、都度変わる髪を自由にメイクできるのは作品がつくられることと同義だ。

ブロウのやり方ひとつで髪は変わる。水気が指から離れていく。1本1本のうねりが束になり頭皮をおおっていく。昨日の曲線を髪は覚えてくれなくて、今日は前髪の一束がやけに主張してきたりする。

毎日、毎日。髪型は同じでいて違う。

 

「彼氏と彼女」の物語。

日夕創出される同じ関係性は、男の子女の子が取り替えられる度、違う組み合わせの物語。

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックス)

素敵な彼氏 1 (マーガレットコミックス)

 

素敵な彼氏/河原和音

集英社 2016年 5月刊

 

「彼氏」を欲しがる主人公、ののかはその「彼氏」に内実が伴わず鍵括弧がついてることに気づかないまま、頭でっかちに彼氏が欲しい彼氏が欲しいとわめく女の子。

「彼氏」探しの一環で知り合った桐山にすぐさまそれを見抜かれるも、ののかは間違いをよく理解できずにいる。

桐山は何故だか健気にののかの傍にいてくれる……。

 

桐山のモノローグがないのが良い。

ののかにちょっかいを出してきて後にその理由を独白して読者にだけ明かすなどしない。

とても単純なことだけどこれのできない作品の多いこと多いこと。

桐山がののかの気になる存在であると同時に、読者にも異彩を感じさせることと思う。何を考えているかわからないが優しいことだけはわかる。ののかのことが好きなのか……??

というのも理由があって。

その、ののかがやたらかわいい。

コロコロ変わる顔は百面相だし、謎のしたまつげがかわいい。黒三角形3つで描かれる。▼ ▼ ▼

目的をはき違えて愛らしいズレを持った子だけど、彼氏ゲットに向けて着実に進もうとするのは好感。

桐山にもののかにも興味が持てる作品なのだ。

「彼氏と彼女」の物語は世に無限にあって、彼氏だけ、彼女だけ魅力的な作品はいくつもあって、もちろん両方に魅力がある作品もいっぱいあって。

けど、この二人の組み合わせだと何が起こるんだろう、もまたひときわ面白い。

くっつくまでももちろん楽しみだけど、ののかと桐山はどういう恋人同士になるんだろう、で頭がいっぱいになれる。